企業は、自社の業界で標準的な指標や、ビジネスの特定の側面を測定するうえで重要な指標など、一連のパフォーマンス指標を追跡しています。ある指標は特定の業界におけるビジネスの健全性を示すのに役立つ一方で、別の業界では意味をなさないこともあります。しかし、多くの業種やビジネスの成長段階において、顧客生涯価値 (CLV) は、企業が顧客との関係で成功しているかどうか、またどこに改善の余地があるかを示す重要な指標です。
サービスとしてのソフトウェア (SaaS) の世界では、CLV は収益最適化の現状と、ビジネスの長期的な成功の可能性を示す指標です。小規模なスタートアップでも、確立された企業でも、CLV を理解して最大化することで、持続可能で収益性の高い顧客基盤を構築し、ビジネス成長を促進するための有益なインサイトと実行可能な戦略を得ることができます。
以下では、サービスとしてのソフトウェア (SaaS) 企業が知っておくべき、CLV の計算方法と向上方法、最も一般的な CLV の算出方法、さらに顧客維持、アップセルやクロスセル、新規顧客獲得を改善するための戦術について説明します。
目次
- 顧客生涯価値とは
- 顧客生涯価値がビジネスにとって重要な理由
- 顧客生涯価値の算出方法
- 顧客生涯価値の測定方法
- 顧客生涯価値に影響する要因
- 顧客生涯価値の例
- Stripe による支援
顧客生涯価値とは
顧客生涯価値 (通常は CLV と表記) は、顧客が企業との関係全体を通じてどれだけの純利益を生み出すかを予測するのに役立つ指標です。これは、企業にとっての顧客の潜在的な価値を評価するものであり、特に価値の高い顧客を特定して優先順位を付け、それに応じてリソースを配分できるようにすることで、戦略的および戦術的な意思決定に役立ちます。
顧客生涯価値がビジネスにとって重要な理由
CLV は、各サブスクリプション顧客の長期的な価値と、その顧客の獲得および維持にかかるコストを把握するのに役立つため、SaaS 企業にとって重要です。これにより、企業は販売、マーケティング、製品開発について、十分な情報に基づいて意思決定を行えます。SaaS 企業の運営において、CLV の影響を受けない側面はほとんどありません。
CLV は、企業全体の健全性を評価し、成長目標を設定するうえでも重要な指標です。さらに、CLV を十分に理解することで、料金設定や顧客エンゲージメント戦略の改善にも役立ち、SaaS 企業が各顧客から長期的に得られる価値を最大化しやすくなります。CLV は顧客価値を総合的に把握する視点を提供し、企業が収益と収益性を高めるためにデータに基づく意思決定を行うのに役立ちます。
CLV がビジネス戦略に影響を与える具体的な領域を、以下にいくつか紹介します。
顧客の優先順位付け
CLV は、特に価値の高い顧客を特定し、それに応じて優先順位を付けるのに役立ちます。これにより、特に価値の高い顧客セグメントの維持と成長にどの程度注力するべきか、あるいは成果の伸び悩むコホートへの取り組みをどの程度強化するべきかについて、企業は十分な情報に基づいて判断できます。マーケティングおよび販売戦略
CLV は、マーケティング戦略や販売戦略の策定にも役立ちます。たとえば、企業は CLV を活用して、新規顧客の獲得に最もコスト効率の高いチャネルや、既存顧客の維持に最も効果的な方法、さらにマーケティングファネルや販売ファネルのどこに非効率があるかを特定できます。予算編成と予測
企業は CLV を活用して、全社的な予算編成や予測に反映させたり、将来の収益源を予測したり、どこにリソースを投資するのが最も効果的かについてデータに基づいて判断したりできます。クロスセルとアップセルの機会の特定
CLV は、企業がどれだけ効率的に顧客を獲得し維持しているかを示すだけでなく、クロスセルやアップセルを通じて既存顧客からの収益を増やす機会も明らかにします。長期的な計画
CLV は、さまざまな顧客セグメントにおける将来の収益源や成長の可能性を見積もることで、企業の長期的な計画に役立ちます。また、未開拓の市場セグメントの可能性を示すこともあります。
顧客生涯価値の算出方法
一般的に、CLV は顧客 1 人あたりが生み出す価値に、その顧客であり続ける期間を掛け合わせて算出します。業界によっては顧客存続期間を月単位で測定し、別の業界では年単位で測定します。たとえば自動車メーカーでは、1 人の顧客が 1 年のうちに複数の車両を購入することはほとんどなく、顧客維持の取り組みも長年にわたってリピート購入を促すことに重点が置かれるため、CLV を年単位で測定することがあります。
さまざまな CLV の計算方法がありますが、シンプルな方法は次のとおりです。
CLV = (1 回の取引の平均額) x (平均取引回数) x (顧客存続期間)
たとえば、顧客が 1 回の購入あたり平均 100 米ドルを使い、6 ヵ月に 1 回購入し、維持期間が 5 年である場合、CLV は次のようになります。
CLV = (100 米ドル) x (1 年に 2 回の購入) x (5 年) = 1,000 米ドル
ほとんどの企業は、効率性と収益性をより包括的に把握するために、このシンプルな式に他の指標も追加します。こうした追加指標には、顧客獲得コスト、粗利益、顧客からの紹介などがあります。
顧客生涯価値の測定方法
CLV は絶えず変化する状況の影響を受けるため、企業は継続的にモニタリングする必要があります。CLV の計算方法は複数あり、企業が事業を展開する業界や市場によっては、現在および将来の財務健全性をより詳細に把握するために、複数の CLV の計算式を検討することがあります。
CLV は次の方法で測定できます。
過去の CLV
この方法では、過去の売上データを使用して、一定の期間にわたって顧客 1 人あたりから得られる平均的な収益を計算します。コホート分析
この方法では、初回購入の時期ごとに顧客をグループ化します (たとえば月別や四半期別)。その後、各コホートの収益と継続率に基づいて CLV を計算します。この方法を使うと、顧客行動のパターンを特定し、異なる顧客セグメントの CLV を比較できます。予測 CLV
この方法では、統計モデルを使用して、顧客の過去の行動や属性に基づき、将来の CLV を予測します。これにより価値の高い顧客を特定できるため、企業はリソースをどのように活用するのが最適かについて、データに基づいて意思決定できます。継続率に基づく CLV
この方法は、リピート購入回数、平均購入額、顧客維持率に基づいています。この方法の計算式は次のとおりです。
CLV = (取引あたりの平均収益) * (リピート購入回数) * (顧客維持率)
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RFM 分析
この方法では 3 つの要素を検討します。- Recency: 最後の購入はいつか
- Frequency: 購入頻度
- Monetary value: 支出額
- Recency: 最後の購入はいつか
企業は、これらのいずれかの方法を使用して、顧客全体または特定のコホートについて CLV を計算できます。将来の収益性をより適切に把握するには、CLV を顧客獲得コスト (CAC) と比較できます。収益性の重要な指標の 1 つは、CAC が CLV を下回っていることです。
顧客生涯価値に影響する要因
顧客生涯価値は固定的な数値ではありません。むしろ、企業の事業環境にある複数の変動要因の結果として決まります。CLV を改善するには、それを左右する主な要因を理解する必要があります。
平均注文額 (AOV)
顧客が注文するたびに使う金額です。アップセル、クロスセル、バンドル販売によって AOV を高めることは、CLV を引き上げる最も手早い方法の 1 つです。購入頻度
特定の期間内に、顧客がどのくらいの頻度で再び購入するかを示します。購入頻度の高い顧客は、1 回しか購入しない購入者よりも大幅に価値が高くなります。顧客継続期間
顧客とブランドの関係が続く期間です。サブスクリプションモデルでは、登録からキャンセルまでの期間として定義されます。小売業では、最初の購入から最後の購入までの期間を指します。チャーンレート
一定期間内に顧客が取引をやめる割合です。これは重要な要素であり、チャーンがわずかに低下するだけでも、顧客生涯価値が大きく積み上がって増加する可能性があります。売上総利益率
CLV は、売上原価 (COGS) を考慮に入れると最も正確になります。利益率が低い場合、売上高の高い顧客でも、利益率の高い売上高の低い顧客より CLV が低くなることがあります。顧客獲得コスト (CAC)
CLV の計算そのものの直接的な構成要素ではありませんが、CLV と CAC の関係は、ビジネス全体の健全性と拡張性を左右します。
顧客生涯価値を高める方法
CLV を高める戦略を策定して実行するには、財務実績を明確に把握していることが欠かせません。多くの企業は新規顧客の獲得に注力しますが、最も持続可能な成長は、すでに獲得している顧客の価値を最大化することから生まれます。企業が CLV を高める方法はいくつかあり、これらの戦略は主に次の 2 つのカテゴリに分けられます。
顧客価値 (支出額) を高める方法
これらの戦略は CLV の式における価値の部分に焦点を当て、あらゆるやり取りで生み出される収益を最大化することを目的としています。具体的には、次のような戦略があります。
アップセルとクロスセルの取り組みへの投資を増やす
CLV を高める方法の 1 つは、顧客により多く支出してもらうことです。ほとんどの企業にとって、これはクロスセルとアップセルを意味します。企業は、決済時に戦略的な商品提案を行うことや、人気商品をまとめて販売すること、既存顧客の購入時に補完的な商品やサービスを提案すること、また、より高機能な製品プランやメンバーシップへ移行するよう顧客に促すことによって、1 回の販売あたりの平均額を高めることができます。サブスクリプションベースのモデルに注力する
サブスクリプションベースのモデルは、継続的な収益源を確保することで、CLV を高めることができます。たとえば、月額料金のサブスクリプションボックスで商品を販売する企業は、その商品を 1 回限りで販売する企業よりも CLV が高くなります。同様に、SaaS のビジネスモデルは、顧客がソフトウェア製品を完全に所有するために高額な買い切り料金を支払うのではなく、継続利用のために少額の定期料金を支払う場合に、CLV が高まるという考え方に基づいています。顧客獲得コストを削減する
新規顧客の獲得コストを下げることで、企業は顧客基盤全体の収益性を高め、その結果 CLV を向上させることができます。どの獲得チャネルが最も効率的に機能しているかを把握すれば、成長に伴ってどこに注力すべきかが見えてきます。同様に、成果の低い獲得チャネルや戦術を把握することも有益であり、新たな最適化の実施や、より成果の高い領域へのリソース再配分につながります。
顧客のロイヤルティを高める方法
顧客維持に注力する
CLV は、顧客維持をはじめとする多くのビジネス指標と関連しています。優れた顧客体験を提供することで、企業は顧客満足度とロイヤルティを高め、リピート購入や長期的な関係維持につなげることができます。これは、迅速で親しみやすいカスタマーサービス、一貫した商品品質、明確なコミュニケーション、直感的でコンバージョンに最適化されたウェブサイト、柔軟な返品ポリシーによって実現できます。顧客ロイヤルティの促進
ビジネスには、中核的な製品とサービスに注力する以外にも、顧客が継続的に製品やサービスを利用し、ブランドとの関係に満足できるようにする包括的な体験を醸成するための機会があります。特典や割引、その他のインセンティブなどのロイヤルティプログラムを導入することで、顧客のリピート購入やロイヤルティの維持を促すことができます。顧客体験のパーソナライズ
高い維持率を実現する戦略の一環として、自社の製品やブランド全体を通じて、パーソナライズされた体験を生み出すことが挙げられます。これには、顧客との関係強化、ブランドへの親近感の向上、リピート取引の接点拡大につながる、ターゲットを絞ったレコメンデーション、プロモーション、コミュニケーションなどが含まれます。顧客データの分析とインサイトに基づく行動
綿密に計画された指標追跡の運用は、CLV を最大化するうえで重要です。顧客データを分析し、レポートを定期的に確認することで、企業は顧客の行動や好みに関する有益なインサイトを得ることができます。これらのインサイトは、ターゲットを絞ったプロモーションや顧客体験全体の改善に活用できます。ブランドアンバサダープログラムの構築と投資
インセンティブ、特典、表彰を提供して顧客にブランドアンバサダーになってもらうことで、オーガニックな紹介を増やすことができ、従来のマーケティング手法よりも低いコストで新規顧客を獲得できます。ブランドアンバサダープログラムの価値は、投入した分に見合うものになります。企業にとって大きな追い風になることもあれば、時間と費用の無駄になることもあります。アンバサダープログラムを成功させるには、周到な計画と、アンバサダーとの強力なエンゲージメントが必要です。販売後の顧客エンゲージメント
企業は、メールキャンペーン、アンケート、有益なコンテンツ、デジタルイベントや対面イベント、そのほかのフォローアップを通じて既存顧客と継続的に関わることで、リピート購入や好意的な口コミを促し、CLV を高めることができます。重要なのは、顧客の受信トレイを不要なプロモーションであふれさせることなく、ブランドに対する好意的な印象を継続的に育み、常に思い出してもらえる存在であり続けることです。
ビジネス成長戦略を策定して実行し、収益の可能性を最適化するには、ビジネスの財務実績を明確かつ実務的に理解することが欠かせません。しかし、その理解を得ることは、会社の最終利益を見るだけでは済まない、より複雑な作業です。どの指標を追跡し、分析し、それに基づいて行動するかを見極めるには、戦略的な思考が求められます。チームがビジネスの健全性を把握するためにどの指標を使うにしても、CLV はおそらく重要な役割を果たすでしょう。
顧客生涯価値の例
CLV は、単なる過去の購買履歴ではなく、顧客とブランドの関係が継続していく過程として捉えることで、最も効果を発揮します。以下に例を示します。
対面型小売業における顧客生涯価値の例
毎営業日に地元のカフェに通う、忠実な顧客の Sarah を想像してみてください。Sarah はそのコーヒーショップを月に約 20 回訪れ、1 回の来店につき 6 ドルを使います。今の近所にはあと 5 年ほど住む予定です。
Sarah の CLV は、20 回の来店 x 6 ドル x 60 ヵ月 = 7,200 ドルと計算できます。
Sarah の長期的な価値は非常に高いため、そのコーヒーショップは Sarah の獲得により多くの費用をかけることを正当化できます。
SaaS 企業における顧客生涯価値の例
プロジェクトマネージャーの Alex が、生産性向上ソフトウェアに登録するとします。Alex は月額 25 ドルのプランから始めます。ヘビーユーザーであるため、少なくとも 4 年間はサブスクリプションを継続し、2 年目の半ばにアップグレードする予定です。
この場合、Alex の LTV は次のように計算できます。(25 ドル x 18 ヵ月) + (100 ドル x 30 ヵ月) = 3,450 ドル。
Alex の CLV が 3,500 ドル近くになるとわかれば、この SaaS 企業は、手厚いオンボーディングやプレミアム顧客対応に積極的に投資できます。なぜなら、最初の 1 ヵ月を成功させることで、その後何年にもわたる継続収益や社内での利用拡大につながる可能性があるためです。
EC における顧客生涯価値の例
サステナブルな履物を専門とするオンラインブティックを考えてみましょう。新規顧客の Jordan は、200 ドルのブーツを 1 足購入します。一見すると、Jordan の獲得にかかったマーケティングコストは 50 ドルで、その 1 回の購入だけでは利益率が理想より低いように思えるかもしれません。しかし、Jordan は毎年 1 回新しい靴を購入し、さらにアクセサリーも年 2 回購入しており、5 年間にわたる 1 回の来店あたりの平均購入額は 50 ドルです。
CLV は次のように計算できます。200 ドル (初回) + (200 ドル x 4 年) + (50 ドル x 2 回の来店 x 5 年) = 1,500 ドル。
ブティックがこの観点から Jordan を捉えると、最初の 50 ドルの顧客獲得コストはごく小さいものになります。この価値を理解することで、ブランドは 1 回限りの購入者を追うだけでなく、ロイヤルティ特典などの購入後マーケティングに重点を置くようになります。
Stripe Billing でできること
Stripe Billing は請求および顧客管理のためのプロダクトです。シンプルな継続請求から従量課金、商談による契約への対応まで、貴社のニーズに合わせた請求管理や顧客管理を実現します。コーディング不要で、グローバルな継続課金をわずか数分で開始できます。API を活用した独自システムの構築も可能です。
Stripe Billing の特徴
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売上を伸ばし解約を防止: Smart Retries と回収ワークフローの自動化で、支払い回収を効率化し、意図しない解約を減らします。Stripe のリカバリツールは、2024 年に 65 億ドル以上の支払い回収をサポートしました。
業務効率の向上: Stripe のモジュール型税務管理、収益レポート、データツールを活用して複数の収益管理システムを 1 カ所に統合。外部のソフトウェアとも簡単に連携できます。
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この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。